大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成11年(ワ)15507号 判決

原告 シーヴィトレーディングカンパニー有限会社

右代表者代表取締役 チャンドル・ヴィ・タクル

右訴訟代理人弁護士 小島秀樹

同 出井直樹

同 本間正浩

同 桐原和典

同 小川浩賢

同 斜木裕二

同 蛇持裕美

同 岡田泉

同 臼井隆行

同 豊島真

被告 株式会社商船三井

右代表者代表取締役 生田正治

右訴訟代理人弁護士 木村宏

同 村田哲哉

同 小枝倫子

主文

一  被告は、原告に対し、金二六七七万六一八八円及びこれに対する平成一〇年一二月二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金五六〇八万五六九七円及び内金四六〇八万五六九七円については平成一〇年一二月二日から、内金一〇〇〇万円については平成一一年七月二〇日から支払済みまでそれぞれ年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告がチリ国の業者に売却した商品の海上運送を被告に委託したところ、被告の現地代理店が原告に無断で船荷証券の写しを原本化して荷受人に交付し、荷受人が代金を原告に支払うことなく貨物を受け取ることを可能にし、その結果原告が荷受人から代金の支払いを受けることができなくなったとして、被告に対し、債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。

一  前提となる事実(証拠で認定した事実については、各項の末尾に当該証拠を摘示した。なお、訳文の付された書証については、訳文を付すために設けた枝番は省略して表示するものとする。以下、同様とする。)

1  原告は、繊維製品、日用雑貨、電気製品等の輸出入・売買を業とする有限会社であり、被告は、海上運送等を業とする株式会社である。(争いがない。)

2  原告は、「エー・ビー・シー インターナショナル」及び「タイセイ貿易」という通称を用いて事業を行っている。(甲一三ないし甲一八、弁論の全趣旨)

3  原告(但し、名義はタイセイ貿易)は、プレム・インターナショナル(イクイケ)エス・エー(以下「プレム」という。)との間で、平成一〇年三月から同年八月にかけて、五回にわたり、オーディオカセット等(以下「本件各貨物」という。なお、対応する船荷証券との関係で「本件貨物一」等とも表示する。各貨物の内容及び数量については後記のとおり当事者間に争いがある。)を売却する契約(以下「本件各売買契約」という。)を締結した。(甲六ないし甲一〇、甲一〇一の一〇ないし一二、甲一〇二の九ないし一一、甲一〇四の八、一〇、一一、甲一〇五の七、八、弁論の全趣旨)

4  被告は、原告(但し、名義はエー・ビー・シー インターナショナル)との間で、平成一〇年四月から同年八月にかけて、本件各貨物の引渡しのため、本件各貨物をシンガポール港からチリ国イクイケ港まで海上運送する旨合意し(以下「本件各運送契約」という。)、本件各運送契約に基づき、シンガポール港において、本件各貨物をそれぞれ船積みし、原告に対し、左記の船荷証券(以下「本件各船荷証券」という。)を交付した。(エー・ビー・シー インターナショナル名義でのものとしては争いがなく、エー・ビー・シー インターナショナルと原告が同一であることは前記認定のとおり。)

(一) 船荷証券番号 MOLU-三三二一二〇七九七(以下「本件船荷証券一」という。甲一〇一の一六ないし二一)

コンテナ番号 MOLU-八二〇四〇二七

内容物 申告によると一九〇〇力ートンの電子物品

荷送人 原告(船荷証券上の記載は「エー・ビー・シー インターナショナル」であるが、その名称は、前記認定のとおり原告の通称と認められる。以下、同様とする。)

荷受人 指図式

運送人 被告

船舶の名称 ピー・アンド・オー ネッド・アリカ

船積港 シンガポール港

陸揚港 イクイケ港

船荷証券作成地及び作成年月日 大阪において平成一〇年四月一二日

船荷証券の通数 原本三通

(二) 船荷証券番号 MOLU-三三二二二〇九二六(以下「本件船荷証券二」という。甲一〇二の一五ないし二〇)

コンテナ番号 MOLU-二二三四〇七一

内容物 申告によると一九〇〇力ートンの電子物品

荷送人 原告

荷受人 指図式

運送人 被告

船舶の名称 ウルスラ・リックマーズ

船積港 シンガポール港

陸揚港 イクイケ港

船荷証券作成地及び作成年月日 大阪において平成一〇年五月一日

船荷証券の通数 原本三通

(三) 船荷証券番号 MOLU-三三二二二一一六五(以下「本件船荷証券三」という。甲一〇三の八ないし一一)

コンテナ番号 MOLU-二二一六二一〇

内容物 申告によると一九〇〇力ートンの電子物品

荷送人 原告

荷受人 指図式

運送人 被告

船舶の名称 ピー・アンド・オー ネッドロイド・サルバドール

船積港 シンガポール港

陸揚港 イクイケ港

船荷証券作成地及び作成年月日 大阪において平成一〇年六月九日

船荷証券の通数 原本三通

(四) 船荷証券番号 MOLU-三三二二二一五〇〇(以下「本件船荷証券四」という。甲一〇四の一四ないし一九)

コンテナ番号 MOLU-二九七五六六五

内容物 申告によると一九三九力ートンの電子物品

荷送人 原告

荷受人 指図式

運送人 被告

船舶の名称 コンコード

船積港 シンガポール港

陸揚港 イクイケ港

船荷証券作成地及び作成年月日 大阪において平成一〇年八月一日

船荷証券の通数 原本三通

(五) 船荷証券番号 MOLU-三三二二二一五八〇(以下「本件船荷証券五」という。甲一〇五の一二ないし一五)

コンテナ番号 MOLU-二八五二三二〇

内容物 申告によると一九〇〇カートンの電子物品(なお、甲一〇五の一二の二、甲一〇五の一四の二の一九三九力ートンとの記載は誤記である。)

荷送人 原告

荷受人 指図式

運送人 被告

船舶の名称 ネッドロイド・ヴァン・ネス

船積港 シンガポール港

陸揚港 イクイケ港

船荷証券作成地及び作成年月日 大阪において平成一〇年八月一二日

船荷証券の通数 原本三通

5  チリ国の法制度上、チリ国の港へ搬入された物品は、税関長により指定された地点において、陸揚げ後二四時間以内に税関に引き渡されなければならない。物品が税関へ引き渡された後は、税関が物品を管理し、荷受人等貨物を受け取る真正の権利者を確認した上で、荷受人等の申請に基づき、荷受人等が物品を荷受人等の特定倉庫へ移動することを許可し、物品が右特定倉庫へ移された後は、荷受人等は自由にチリ国内のその他の場所へ物品を移動させることができる(チリ国税関条例二五条、六〇条)。

なお、荷受人等がチリ国税関から物品の引渡しを受けるためには、税関に対し、船荷証券の原本、又は、運送会社あるいはその代理人が発行する原本である旨の認証印が押捺された原本化された船荷証券の写し(以下「原本化された写し」という。)を呈示しなければならない。(甲一九、甲二六、乙一、乙一八)

6  イクイケ港においては、税関の代行機関たるエンプレサ・ポルトゥリア・イクイケ・エス・エー(以下「エンプレサ」という。)が、前項記載の物品の受領、保管、荷受人への引渡しに関する税関の業務を代行している。(乙一二、乙一九、乙二七)

7  被告は、本件各運送契約に基づき本件各貨物をイクイケ港へ海上運送し、被告の現地代理人であるウルトラマル・アヘンシア・マリティマ・リミタダ(以下「ウルトラマ」という。)が、それぞれ左記の年月日に、本件各貨物をエンプレサに対し引き渡した。(乙三の一ないし五、弁論の全趣旨)

(一) 本件貨物一につき、平成一〇年五月一八日

(二) 本件貨物二につき、同年六月六日

(三) 本件貨物三につき、同年七月二〇日

(四) 本件貨物四につき、同年九月七日

(五) 本件貨物五につき、同年九月一八日

8  ウルトラマは、チリ国内で被告の貨物引渡業務等の代理店役務を提供する、被告の現地代理店であり、被告の船舶の出入港手続、本件各貨物のエンプレサへの引渡手続を、被告の委託を受け、被告に代わって行った。(乙二一、乙二二、弁論の全趣旨)

9  エンプレサは、それぞれ左記の年月日に、本件各船荷証券の原本あるいは原本化された写しを呈示したプレムに対し、本件各貨物を引き渡した。(争いがない。但し、原本と原本化された写しのいずれを呈示したかについては後記のとおり当事者間に争いがある。)

(一) 本件貨物一につき、平成一〇年五月一八日

(二) 本件貨物二につき、同年六月六日

(三) 本件貨物三につき、同年七月二〇日

(四) 本件貨物四につき、同年九月七日

(五) 本件貨物五につき、同年九月一八日

10  原告は、プレムを名宛人として、為替取組銀行(本件船荷証券一については香港上海銀行、同二ないし五についてはインド銀行)を受取人とする為替手形を振り出し、本件各船荷証券とともに荷為替を組み、為替取組銀行においてこれを買い取ってもらった。

各為替取組銀行は、本件各為替手形と本件各船荷証券をチリ国の取立銀行(本件船荷証券一、三についてはバンコ・サド・アメリカーノ、同二、四、五についてはコープバンカ)に取立てに回し、各取立銀行は、プレムに対し、本件各為替手形を呈示して手形金の支払いを求めた。

しかし、プレムは、本件各為替手形の引受けをいずれも拒絶したため、本件各為替手形と本件各船荷証券は、各取立銀行から各為替取組銀行へ返還され、原告は、平成一二年に至り、償還義務あるいは買戻義務の履行として各為替取組銀行から本件各為替手形と本件各船荷証券を買い戻した。

現在は、原告が、本件各船荷証券原本のうち、本件船荷証券三の第二原本及び本件船荷証券五の第一原本以外のものを所持している。(甲二〇、甲一〇一の一ないし九、一六ないし二一、甲一〇二の一ないし八、一五ないし二〇、甲一〇三の一ないし一一、甲一〇四の一ないし七、一四ないし一九、甲一〇五の一ないし六、一一ないし一五、弁論の全趣旨。右原告の船荷証券原本の所持については争いがない。)

11  プレムが本件各貨物を保管していた倉庫は、平成一〇年一〇月ころ、火災に遭い、本件各貨物は焼失した。(甲一九、甲五五、弁論の全趣旨)

12  原告は、平成一一年七月一三日、本件訴えを提起した。

二  争点及び争点に関する当事者の主張

前提となる事実によれば、原告は、本件各貨物をプレムに売却するにあたり、被告との間で本件各運送契約を締結し、被告から本件各船荷証券の交付を受けるとともに、プレムを支払人とする為替手形を振り出して荷為替を組んだ上、これを為替取組銀行(香港上海銀行及びインド銀行)に買い取ってもらったこと、一方、被告は、本件各運送契約に基づき本件各貨物をイクイケ港へ海上運送し、被告の現地代理店であるウルトラマにおいてこれを税関の代行機関であるエンプレサに引き渡したこと、プレムは、本件各船荷証券の原本あるいは原本化された写しを呈示することによってエンプレサから本件各貨物の引渡しを受けたこと、その後、支払人であるプレムが右為替手形の引受けを拒絶したため、原告は、償還義務あるいは買戻義務の履行として為替取組銀行から本件各為替手形と本件各船荷証券を買い戻し現在これを所持していること(但し、本件船荷証券三及び五については原本二通のみ)が明らかである。

なお、本件各運送契約の当事者については、被告は原告との間で契約を締結したことを争い、エー・ビー・シー インターナショナルとの間で契約したと主張しており、本件各船荷証券上には荷送人としてエー・ビー・シー インターナショナルの名前が記載されているが、前記認定のとおり、エー・ビー・シー インターナショナルは原告の事業上の通称であると認められるので、本件各運送契約の当事者は原告と認めることができる。また、原告とプレム間の本件各売買契約についても、送り状や販売確認書はタイセイ貿易名義で作成されているが、前記認定のとおり、タイセイ貿易もまた原告の事業上の通称であると認められるので、本件各売買契約の当事者も原告と認めることができる。

ところで、原告は、プレムが本件各貨物を受け取る際にエンプレサに呈示したのは、被告の現地代理店であるウルトラマによって違法に原本化された本件各船荷証券の写しであり、右ウルトラマの違法行為により原告は本件各貨物の代金相当額の損害を被ったとして、被告に対し債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償を請求しているのに対し、被告はウルトラマの行為自体を争った上で、被告自身の債務不履行責任及び不法行為責任を否定し、さらに原告の主張する損害の発生及び損害との因果関係についてもこれを争っており、前記前提事実のもとでの、原告と被告間の本件訴訟における具体的な争点及び争点に関する当事者双方の具体的な主張は、以下1から4に記載するとおりである。

1  ウルトラマが違法に本件各船荷証券の写しを原本化してプレムに交付し、それをプレムがエンプレサに呈示して本件各貨物の引渡しを受けたと言えるか。

(原告の主張)

ウルトラマは、本件各船荷証券の写しを原告に無断で原本化してプレムに交付し、プレムをして代金を支払わないまま本件各貨物を受け取ることを可能にさせたことにより、原告において本件各貨物の代金をプレムから確実に回収し、あるいは、プレムが代金を支払わない場合には、本件各貨物を回収する機会を喪失させた。

(被告の主張)

ウルトラマが本件船荷証券三の写しを原本化しプレムに交付したことは認めるが、それ以外の本件各船荷証券についてウルトラマが写しを原本化したことはない。

本件船荷証券一、二、四及び五については、プレムは、原本化された写しではなく船荷証券原本をエンプレサに呈示して本件各貨物の引渡しを受けたものである。

2  本件各運送契約におけるウルトラマの地位に照らし、ウルトラマの行った違法行為につき、被告が本件各運送契約あるいは国際海上物品運送法三条一項に基づく債務不履行責任もしくは民法上の不法行為責任を負うと言えるか。

(原告の主張)

(一) 国際海上物品運送法三条一項にいう「引渡」は、荷受人が代金を支払って船荷証券を取得し、これを呈示して貨物を受領するという正常な引渡しを履行内容とする概念であり、運送人の債務としては、右正常な引渡しを妨害しないという不作為義務を含むものと解されるから、本件各船荷証券の写しを原本化してプレムに交付したウルトラマの行為は、同項の「引渡」義務違反にほかならない。

そして、ウルトラマは、被告にとって、同項の「使用する者」に該当するから、被告は、ウルトラマが運送品の「引渡」につき注意を怠ったことによって生じた損害につき、同項により、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。

(二) ウルトラマは、本件各船荷証券の写しを原本化しプレムに交付しないという不作為義務を負っていると解すべきである。これは、仕向港で本件各貨物を受け取り荷揚港で引き渡すという本件各運送契約の主たる債務には含まれないが、それに付随する契約上の義務であり、本件各船荷証券の写しを原本化してプレムに交付したウルトラマの行為は、右付随義務違反と言うべきである。

そして、ウルトラマは、本件各貨物をイクイケ港において荷受人(本件の場合はエンプレサ)に引き渡すという、被告の本件各運送契約上の債務の履行を代行している履行代行者であるから、被告は、ウルトラマのした違法行為につき、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。

(三) 被告は、ウルトラマが被告の引渡業務を代行することにつき指揮監督しているのであり、ウルトラマが、本件各貨物の引渡手続という被告の業務の執行にあたって、原告に対し損害を加えたのであるから、被告は、使用者として、民法七一五条一項の損害賠償責任を負う。

(四) 被告は、本件各船荷証券の写しを作成し、これがウルトラマにわたって原本化されたのであるから、ウルトラマとともに共同不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

(被告の主張)

(一) 被告は、本件各貨物をエンプレサに引き渡したことにより本件各運送契約上の義務の履行を完了しているから、その後にウルトラマが本件各船荷証券の写しを原本化し、それにより本件各貨物がエンプレサからプレムに引き渡されたことによって原告に損害が発生していたとしても、被告は契約上の債務不履行責任を負わない。

(二) また、ウルトラマは、被告の代理店であるが、被告とは別個の独立自営の会社であり、被告とウルトラマの間には指揮監督の関係はないから、ウルトラマは、国際海上物品運送法三条一項にいう「使用する者」でも、民法七一五条にいう「被用者」でもない。よって、仮にウルトラマの行為によって原告が損害を被ったとしても、被告が責任を負う理由はない。

3  被告の責任につき国際海上物品運送法一四条一項の除斥期間の適用があると言えるか。

(被告の主張)

被告がエンプレサに対し本件各貨物を引き渡した日からそれぞれ一年間が経過した時点(最終は、本件船荷証券五について、平成一一年九月一八日が経過した時点)で、国際海上物品運送法一四条一項の一年間の除斥期間が経過し、本件訴訟にかかる被告の責任は消滅した。

なお、原告は、平成一一年七月一四日に本件訴えを提起したが、その際、原告は本件各船荷証券を所持しておらず、本件各貨物については無権利者であったから、右訴え提起は有効なものとは言えない。

(原告の主張)

(一) 被告の責任を、国際海上物品運送法が規律する運送人による運送品の受取りから引渡しまでが終了した後になお残存する付随義務違反と考える場合には、同法一四条一項の適用はなく、一般の債務不履行に関する一〇年の消滅時効の規定に従うと解すべきである。

(二) 被告の責任を、本件各船荷証券の写しを原本化しプレムに交付したという不法行為責任と考える場合、右行為は本件各運送契約の枠外にある別個の不法行為であるから、国際海上物品運送法の適用はなく、一般の不法行為に関する三年の消滅時効の規定に従うと解すべきである。

(三) 仮に、被告の責任につき、国際海上物品運送法一四条一項の適用があった場合でも、原告は同項の除斥期間内に有効に訴えを提起したため、原告の被告に対する損害賠償請求権は消滅していない。

なお、原告は本件訴え提起時に本件各船荷証券を所持していなかったとしても、本件請求は、付随義務違反にせよ、ウルトラマの不法行為に関する監督者責任にせよ、本件各船荷証券に基づく権利そのものを行使しているのではないから、本件各船荷証券の所持は不要と解すべきである。

また、仮に本件請求のために船荷証券の所持が必要であるとしても、原告は、本件訴訟の口頭弁論終結時までに本件各船荷証券を所持するに至ったのであるから、右要件を具備したと解すべきである。

4  被告の債務不履行あるいは不法行為により、実際に原告の主張する損害が発生したと言えるか。

(原告の主張)

(一) 本件各貨物の内容物は、本件各船荷証券記載の種類、容積、重量、個数のオーディオ・カセット・テープである。いわゆる不知文言が記載されている場合には、各貨物の内容は荷送人が立証しなければならないという立場に立ったとしても、販売確認書及び送り状の記載に照らしても内容物が各船荷証券記載のものであることの立証は尽くされている。

(二) 本件各貨物の代金支払いのために原告がプレムを支払人として振り出した本件各為替手形はプレムにより引受けを拒絶されたため、原告は、本件各為替手形の受取人である各為替取組銀行から、償還義務あるいは買戻義務に基づき、本件各為替手形と本件各船荷証券を買い戻した。また、プレムから原告代表者個人に対し代金が送付されたこともなく、いまだ代金は原告には一切支払われていない。

(三) 本件各貨物はプレムのもとで焼失し、プレムは無資力状態であるから、原告がプレムから代金を回収することはできず、原告は右貨物代金相当額の損害を被った。

(四) 損害額は、イクイケ港における、本件各貨物引渡し時における、本件各貨物の市場価格であるから、本件各貨物の送り状に記載された米ドル建ての売買代金額を、本件各貨物引渡し日における為替レートを用いて日本円に換算した額が損害額となる。

(被告の主張)

(一) 本件各貨物の実際の内容が本件各船荷証券記載のものであることは不知。右各船荷証券には、いわゆる「不知文言」が記載されているから、本件各貨物の内容については原告が立証すべきところ、原告はその立証を尽くしていない。

(二) 原告は、プレムから原告代表者個人名義の銀行口座に送金を受ける方法により、本件各貨物の代金の支払いを受けているから、原告に損害はない。

(三) プレムは、本件各貨物の引渡し日ころに、原告の代表者宛に本件各貨物の代金にも匹敵する金額の支払いをしているし、本件各為替手形についても引受けの拒絶に止まり、資金不足による不渡りというような状況にまでは至っていなかった。したがって、プレムが無資力であるとする原告の主張は事実に反する。

(四) 損害額については、証拠として原告が一方的に作成した送り状が提出されているだけで、本件各貨物の市場価格を認定するに足る証拠は一切提出されていないし、米ドル建ての金額を日本円に換算して請求する際には、為替レートの基準時は、事実審の口頭弁論終結時とするべきである。

第三争点に対する判断

一  争点1(ウルトラマによる違法な本件各船荷証券の写しの原本化とプレムによる右写しの呈示の事実の有無)について

1  チリのイクイケ港では、エンプレサが代行する税関での貨物引渡手続においては、原本化された船荷証券の写しを船荷証券原本と同じく取り扱うという便宜的な制度が存し、荷受人は、船荷証券の原本を呈示するかあるいはこれに代えて原本化された船荷証券の写しを呈示することによってエンプレサから貨物を受け取ることができると認められる(甲一九、甲二〇、甲二六、弁論の全趣旨)ところ、前記のとおり、プレムがイクイケ港においてエンプレサから本件各貨物を受け取るにあたっては、本件各船荷証券の原本又は原本化された写しのいずれかを呈示したこと及びそのうち本件船荷証券三については、その写しをウルトラマが原本化してプレムに交付し、プレムがこれをエンプレサに呈示して本件貨物三の引渡しを受けたことは当事者間に争いがない。そして、前提となる事実によれば、本件各船荷証券の原本は、荷為替に組まれて原告から為替取組銀行(香港上海銀行及びインド銀行)に買い取られ、為替取組銀行から取立銀行(バンコ・サド・アメリカーノ及びコープバンカ)へ取立てに回されたが、プレムは本件各貨物の代金を取立銀行に対し支払わず、プレムが為替手形の引受けを拒絶したため、取立銀行から為替取組銀行に返還され、償還義務あるいは買戻義務に基づき原告がこれを買い戻し、現在原告がこれを所持していること(但し、本件船荷証券三の第二原本と本件船荷証券五の第一原本は回収されていない。)が明らかであり、また、一方で、取立銀行が荷受人から為替手形金全額の支払いを受ける前に、荷受人に船荷証券原本を貸し渡す場合があること(乙二三ないし乙二六、弁論の全趣旨)、本件各船荷証券の写しを原本化する権限を有するのは運送人である被告あるいはその現地代理店であるウルトラマのいずれかであること(弁論の全趣旨)がそれぞれ認められる。

そうすると、以上の事実関係に照らす限り、プレムがイクイケ港においてエンプレサから本件各貨物を受け取るにあたっては、<1>当時取立銀行のもとで保管されていた本件各船荷証券原本が何らかの事情により取立銀行から貸し渡される等によりプレムに交付されたか(被告はその可能性があると主張している。)、<2>被告あるいはウルトラマが本件各船荷証券の写しを原本化してこれをプレムに交付したか(原告はウルトラマが本件各船荷証券の写しを原本化し、これをプレムに交付したと主張している。)のいずれかによったものと認められ、それ以外の方法を考える余地はないと言うべきである。

2  そこで、まず、本件において取立銀行(バンコ・サド・アメリカーノ及びコープバンカ)が本件各船荷証券の原本を荷受人であるプレムに貸し渡す等して交付した可能性について検討する。

(一) 前記認定のとおり、一般論としては、取立銀行が荷受人から為替手形金全額の支払いを受ける前に、荷受人に船荷証券原本を貸し渡す場合があることは事実であり、弁論の全趣旨によれば、本件と同様に手形の支払いをするのと引換えに船荷証券等の船積書類を引き渡す荷為替手形の場合には、荷受人として貨物代金全額を即決済することが困難である場合も多いため、船荷証券等の船積書類の貸渡しの制度が用いられていることも認められる。

しかし、取立銀行が荷受人に船積書類の貸渡しを行う場合、取立銀行は荷受人から輸入担保荷物保管証などの担保を取った上で、荷受人に対し船荷証券の譲渡裏書を行うのが通常であると認められるところ(甲四六、弁論の全趣旨)、本件各船荷証券原本には、取立銀行からプレムへの譲渡裏書は存在しないし(甲一〇一の一七、一九、二一、甲一〇二の一六、一八、二〇、甲一〇三の九、一一、甲一〇四の一五、一七、一九、甲一〇五の一三、一五)、取立銀行たるコープバンカ及びバンコ・サド・アメリカーノは、本件各船荷証券をプレムに対し交付していないことを言明しており(甲四七ないし甲五〇)、後述する乙第四号証及び乙第一六号証以外には取立銀行においてプレムに本件各船荷証券を貸し渡したことを窺わせる余地のある証拠は存しない。

(二) また、被告が本件船荷証券三を除くその余の本件各船荷証券の原本がプレムによって呈示された証拠として提出した乙第四号証及び乙第一六号証のエンプレサによる証明書によると、エンプレサは、本件各貨物をプレムが受け取る際には、本件船荷証券三についてはウルトラマによって原本化された写しが呈示されたとしながら、その余の本件各船荷証券については、格別の断りをしておらず、原本が呈示されたことを窺わせる内容になっている。

しかし、右乙第四号証及び乙第一六号証は、本件船荷証券三以外の本件各船荷証券の原本が呈示されたことを明示したものではないし、甲第二〇号証のコープバンカのインド銀行宛の書簡によれば、本件船荷証券五については、その原本化された写しが存在し、プレムがそれを本件貨物五の引渡し後に所持していた事実が認められ、仮に、取立銀行がプレムに対し船荷証券五の原本を貸し渡し、プレムがこれを呈示して本件貨物五の引渡しを受けたとするならば、プレムが本件船荷証券五の原本化された写しを所持する理由はないと考えられるから、右事実に照らす限り、本件船荷証券五についてもプレムが原本化した写しをエンプレサに呈示した可能性が高いと言わざるを得ない。

右の事実に照らすと、乙第四号証及び乙第一六号証の記載内容は、呈示されたものが原本か原本化された写しかの点に関しては、必ずしも信用できないと言わざるを得ない。

(三) 以上認定した事実に照らすと、取立銀行が、本件船荷証券三を除くその余の本件各船荷証券について、担保も取らずにその原本をプレムに貸し渡したと認めるに足る証拠はなく、そのような認定には無理があると言わざるを得ない。

3  以上の次第であって、取立銀行が、本件船荷証券三を除くその余の本件各船荷証券について、原本をプレムに貸し渡したとは認められないから、結局、本件においては、被告あるいはウルトラマが本件各船荷証券の写しを原本化してこれをプレムに交付したと考えるほかないことになる。

そこで検討すると、本件船荷証券三についてはウルトラマが写しを原本化したことに争いがなく、本件船荷証券五についてもウルトラマによって原本化された写しが存在することが明らかであること、プレムが本件各貨物の代金を当時の本件各船荷証券原本の所持人である取立銀行に支払っていないことからすると、ウルトラマが本件各船荷証券の写しの原本化を図った動機としては、代金の支払いをしないままで本件各貨物を受け取れるようプレムに対し便宜を図る意図があったことが推認できるところ、右のようなウルトラマの動機に照らす限り、本件各船荷証券の一部についてのみ写しを原本化するということは通常考えにくいこと、さらには、ウルトラマは被告のチリ国における唯一の現地代理店であり、被告は本件訴訟に関しウルトラマから報告を受けているとしながらも、この点に関するウルトラマ名義の報告書はいまだ書証として提出されていないことといった事情を総合的に考慮すると、ウルトラマが本件各船荷証券の全てについて写しを原本化してプレムに交付し、さらにプレムがこれをエンプレサに呈示することにより本件各貨物の引渡しを受けたものと認めるのが相当である。

そして、当時本件各貨物の代金が本件各船荷証券の原本の所持人である取立銀行に対し支払われていないところ、右ウルトラマによる本件各船荷証券の写しの原本化とそのプレムへの交付については、荷送人である原告の承諾を得ていないことは明らかであり、当該船荷証券によって表象される貨物の代金の支払いと引換えに荷受人に交付されることを原則とする船荷証券の性質に照らすと、実際に本件各貨物の代金の支払いがなされていないのにもかかわらず、荷送人である原告の承諾を得ないで本件各船荷証券の写しを原本化し、これをプレムに交付したウルトラマの行為は、それ自体を違法なものと評価せざるを得ないと言うべきである。

二  争点2(ウルトラマの地位と被告の責任)について

1  国際海上物品運送法三条一項の運送人の責任は、「自己又はその使用する者」が「運送品の受取、船積、積付、運送、保管、荷揚及び引渡につき」行った過失行為について生じるが、同項にいう運送人の「使用する者」とは、運送人と雇用関係にある狭義の履行補助者に限られず、下請人、代理商等いわゆる履行代行者をも含むものと解するのが相当である。

2  以上を前提に、被告の債務不履行に基づく損害賠償責任につき検討する。

(一) ウルトラマは、被告のため(チリ国には被告の社員は駐在していない。)、船舶の停泊場所・入出港の手配、貨物の引受け、手配、被告によって発行された船荷証券に従って行う荷受人への荷渡し手配など、チリ国内で被告が所有・運行する全ての船舶に必要な代理店役務を提供する者であるから(乙二一)、いわばチリ国においては被告と同じ立場で被告の債務の履行をする者と言え、右にいう履行代行者、すなわち国際海上物品運送法三条一項にいう「使用する者」に該当すると認められる。

(二) 前記認定のとおり、被告が、シンガポール港からイクイケ港まで本件各貨物を運送し、イクイケ港において被告の代理店であるウルトラマがエンプレサに対して本件各貨物を引き渡した後は、エンプレサがプレムに対し本件各貨物を引き渡すのであり、被告あるいはウルトラマはその引渡しに関与しないものと認められるから、被告の本件各運送契約上の債務履行行為自体は、エンプレサに対して本件各貨物を引き渡した時点で終了しているものとも解される。

しかし、被告は、荷送人である原告との本件各運送契約により、荷送人である原告に対し、本件各船荷証券の正当な所持人に対して本件各船荷証券と引換えに本件各貨物を引き渡すという義務を負っているのであり、この義務は本件各船荷証券が発行されその所持が第三者に移転した場合でも消滅してしまうわけではないことは以下の取引実態からも明らかである。

すなわち、本件のような荷送人である原告が荷為替取組銀行にあらかじめ為替手形及び船荷証券を買い取ってもらう荷為替取引の実態に着目すれば、船荷証券の正当な所持人でない者(すなわち、代金の支払いあるいは為替手形の引受けをしていない者)に対して貨物が交付されれば、代金支払いの手段としての為替手形は遡求され、あるいは買戻義務に基づき買戻しを余儀なくされることにより、荷送人が一旦手にした代金を再び払い戻さざるを得なくなるので、荷送人としては船荷証券の正当な所持人に対して貨物が引き渡されることに重大な利害を有しているからである。

なお、船荷証券の正当な所持人は、運送人に対し、貨物の引渡請求権を有し、運送人が正当な所持人以外の者に貨物を引き渡してしまったため、右引渡義務の履行が不能になった場合には、履行に代わる損害賠償請求権を取得することになり、前記の運送人の荷送人に対する義務と競合するかのような感があるが、荷送人が荷為替を組んで為替手形及び船荷証券を買い戻すまでは荷送人の損害は現実化しないし、逆に荷送人が買戻しを実行した場合には、船荷証券のかつての所持人は損害が填補され運送人に対し損害賠償請求することはないから、実際には、運送人が船荷証券の所持人と荷送人の双方から貨物代金相当額の請求を受けることは想定できない。したがって、この点は問題とならない。

(三) そこで、以上のような運送人と荷送人の権利義務関係を前提として、本件の運送人である被告の責任について検討すれば、本来被告の現地代理店であるウルトラマは被告に代わり、荷送人である原告に対し、船荷証券の正当な所持人に本件各貨物を引き渡す義務を負っているところ、チリ国においては、法制度上チリ国の港に搬入された物品は全て税関に引き渡さなければならず、その結果として、イクイケ港においては、税関の代行機関であるエンプレサが船荷証券の正当な所持人と認める者に貨物を引き渡すことになっていたものである。

ところで、本件では、前記認定のとおり、ウルトラマが原告に無断で本件各船荷証券の写しを原本化してプレムに交付したのであるが、なぜそのような違法な行為をしたのかを検討すれば、それはプレムが本件各船荷証券を正当に所持していないにもかかわらず、すなわち、本件各貨物の代金を支払ってもいないのに、ウルトラマにおいてはそのことを承知の上で、本件各貨物をエンプレサから引きとることができるよう便宜を図ったものと推認せざるを得ないのである。

そうであるとすれば、本件におけるウルトラマの違法行為は、ウルトラマが本件各貨物をエンプレサに引き渡した後のことであり、エンプレサが貨物の引渡しに介在しているため、一見ウルトラマの運送人の代行者としての義務とは無関係に行われたように見えるものの、これを全体として考察すれば、本件各船荷証券の正当な所持人以外の者に本件各船荷証券と引き換えることなく本件各貨物を引き渡してしまった場合と径庭はないと言うべきであるから、ウルトラマを履行代行者として使用する被告は、国際海上物品運送法三条一項の責任を負い、これにより原告に生じた損害を賠償する義務を負うと解すべきである。

3  つぎに、被告の使用者責任について検討する。

前記認定のとおり、ウルトラマはチリ国内で被告の貨物引渡業務等の代理店役務を提供する被告の現地代理店であるが、被告とウルトラマとの間に資本関係が存在したり、あるいは、被告がウルトラマの従業員に対し人事権を有しているといった事実を認めるに足る証拠は存在しないこと、ウルトラマは被告以外にも七社の海運関係の会社の代理店業務を行っていること(乙二二)から、ウルトラマは被告から独立して業務を行う会社であることが認められ、被告とウルトラマの間に、本件各貨物の引渡しに関して指揮監督関係が存在すると認めることはできない。

以上のとおり、被告がウルトラマの使用者であると認めることはできないから、ウルトラマの本件違法行為につき使用者責任を負うと解することはできない。

4  また、原告は、被告がウルトラマとの共同不法行為責任を負うと主張するが、前記認定のとおり、被告は、イクイケ港に自己の支店あるいは出張所を持たず、本件各貨物の引渡しの具体的業務については全てウルトラマに一任し、ウルトラマに対し具体的な指揮監督をしていなかったと認められること、本件各船荷証券の写しの原本化についても、被告がウルトラマに対し指示あるいは教唆していた事実を認めるに足る証拠は存在しないことからすると、被告は、ウルトラマの本件違法行為に関与していると認めることはできず、共同不法行為責任を負うとは言えない。

三  争点3(除斥期間の適用の有無)について

1  前記認定のとおり、被告は、国際海上物品運送法三条一項の損害賠償責任を負うところ、同項の責任は、同法一四条一項の「運送品に関する運送人の責任」に該当するから、右被告の責任は、同項の適用により、本件各貨物が引き渡された日からそれぞれ一年以内に裁判上の請求をしないときは、消滅すると解すべきである。

2  そこで、この点について検討すると、前提となる事実によれば、本件貨物一は平成一〇年五月一八日に、本件貨物二は同年六月六日に、本件貨物三は同年七月二〇日に、本件貨物四は同年九月七日に、本件貨物五は同月一八日に、それぞれ、被告からエンプレサに対し引き渡されたこと、一方、原告は、本件訴えを平成一一年七月一三日に提起したことが認められ、この事実によれば本件訴え提起は、本件貨物一及び二の引渡し日から一年以内になされていないことが明らかであるから、本件貨物一及び本件貨物二についての、被告の原告に対する損害賠償責任は、各引渡し日から一年が経過した時点で既に消滅したものと言わざるを得ない。

3  つぎに、本件貨物三ないし五については、各引渡し日から一年以内に本件訴え提起がなされているが、被告は、本件貨物三ないし五についても、本件訴え提起の時点で原告は各船荷証券を所持していなかったから、本件訴え提起は有効なものとは言えず、それぞれの引渡し日から一年が経過した時点で、それぞれに対応する損害賠償請求権は消滅しており、その後に原告が各船荷証券を所持するに至ったとしても、既にその時点では損害賠償請求権が消滅しているから、本件請求は認められないと主張する。

この点については、先に検討したとおり、本件請求は、原告と被告との間の本件各運送契約の債務不履行に基づく損害賠償請求であり、船荷証券所持人としての請求ではないから、本件各船荷証券の買戻しを実行しないままで被告に損害が発生したと認められるかという問題は残るものの、少なくとも訴え提起の要件として本件各船荷証券を所持している必要はないと解すべきである。

よって、本件でも、原告は、本件貨物三ないし五につき、各引渡し時から一年以内である平成一一年七月一三日に本件訴えを提起したことにより、国際海上物品運送法一四条一項の除斥期間内に「裁判上の請求」をしたものと認められるから、同項の除斥期間の経過により、本件貨物三ないし五についての損害賠償請求権が消滅したとは言えない。

四  争点4(損害の発生の有無及び損害額)について

1  本件各貨物の内容及び価格について

証拠(甲六ないし甲一〇、甲五二ないし甲六〇、甲一〇一の四ないし七、一〇ないし一二、甲一〇二の五ないし八、九ないし一一、甲一〇三の五、六、甲一〇四の四ないし八、一〇及び一一、甲一〇五の五ないし八)によれば、本件船荷証券一、二及び五の目的物の記載とその販売確認書及び送り状の記載をそれぞれ対比させると、目的物の種類及び数量の記載が一致していること、本件船荷証券三及び四については販売確認書は証拠として提出されていないが、目的物の記載とその送り状の記載を対比すると、同じく目的物の記載と数量の記載が一致していること、本件各船荷証券全部について、航海番号及び船舶名がその送り状と一致していること、また、本件各貨物は全てプレムに引き渡され、取立銀行がプレムに対し、各送り状記載の目的物の価格と同額の為替手形金の支払いを求めたのに対し、プレムが右請求額を認めた上で、もっぱらプレム側の経営状態の悪化を理由として支払いの猶予を求めていたことがそれぞれ認められ、これらの事実に弁論の全趣旨を総合すると、本件各貨物の内容は、本件各船荷証券及び各送り状に記載されたとおりであり、その価格についても各送り状記載のとおり(その総額は、三三万五七八九米ドル)と認めるのが相当である。

2  本件各貨物の売買代金は既に回収済みとする被告の主張について

つぎに、被告は、原告がプレムから本件各貨物の売買代金を既に回収していると主張するので検討する。

この点に関しては、被告の提出した乙第五号証(プレムの被告宛の平成一一年四月一二日付け書簡)によれば、本件各船荷証券五通に他の一通を加えた六通の船荷証券について、プレムが原告代表者の依頼により、同人の個人口座宛に二八万四五七四米ドルを、原告の大阪支店宛に六万二四四八・〇六米ドル、合計三四万七〇二二・〇六米ドルを送金した旨の記載が、同じく被告の提出した乙第六号証の一ないし五(送金記録)によれば、平成一〇年五月一九日から同年一一月一三日にかけて、プレムが原告あるいは原告代表者個人宛に、五回にわたって合計三二万二六四八・九九米ドルを送金した旨の記載がそれぞれあることが認められる。

しかし、右乙第六号証の一ないし五は、その作成者自体が明らかとは言えないし、前記の認定のとおり本件各貨物の価格の合計額は三三万五七八九米ドルであると認められるのに対し、右乙第六号証の一ないし五に記載された本件各貨物の代金に相当する送金額はこれとは一致しないし(本件で請求されていない船荷証券番号三三二一二〇九一二の船荷証券による貨物については、右乙第六号証の三の記載によれば、プレムから原告に対し、平成一〇年七月一六日、利息分を含めた六万二六四八・九九米ドルが送金されたとされており、右乙号各証の記載を前提とする限り、本件各貨物の代金に相当するのは、二八万四五七四米ドルということになって右合計額とは一致しない。)、代金の支払先を一部原告代表者の個人口座宛としていることも不自然である。

また、甲第五二ないし甲第六〇号証には、プレムは、平成一〇年八月から同年一二月にかけて、原告に対し、再三にわたって自らの経営状況が悪化していることを訴えて本件各貨物の代金の支払いの猶予を求めていることが認められ、前掲乙号各証の記載は、これが本件各貨物の代金の支払いに充てたものであるとすると、右事実とも矛盾するものである。

さらに、甲第二七号証ないし甲第三一号証によれば、インドの金融業者がプレムの代表者に対し約五〇万米ドル余りを貸し付け、右貸付けにつき原告の代表者が保証人となった上、その返済の窓口にもなっていたことが窺われるところ、甲第三二号証及び甲第三三号証の記載によれば、前掲乙第六号証の一、二、四、五に記載されたプレムからの送金を原告代表者が右約五〇万米ドルの弁済として受領した可能性も否定できない。

以上のような事実関係に照らすと、前掲乙第五号証及び乙第六号証の一ないし五から直ちに、被告の主張するようなプレムによる本件各貨物の売買代金支払いの事実を認めることは困難であり、ほかに原告がプレムから本件各貨物の売買代金を回収したことを認めるに足る証拠はない。

3  本件各貨物の売買代金の回収の可能性について

前記認定のとおり、原告はいまだプレムから本件各貨物の売買代金を回収していないものと認められるところ、原告は、プレムは既に無資力状態にあり、しかも本件各貨物は既に焼失しており、本件各貨物の売買代金の回収は困難であると主張するのに対し、被告はこれを争っているので検討する。

この点に関しては、被告の主張するように、乙第五号証及び乙第六号証の一ないし五によれば本件各貨物がプレムに引き渡された当時、本件売買代金の支払いに充てられたとまでは認められないものの、プレムが三二万米ドル以上の金銭を送金していたことが認められるし、また、プレムが資金不足を理由とする手形の不渡りにより取引停止処分を受けたといった事実を認めるに足る証拠はない。

しかし、前記認定のとおり、本件各為替手形がいずれもプレムにより引受けを拒絶をされていることは明らかであり、これに、本件各貨物の引渡しの最終日である平成一〇年九月一八日以降、プレムが経営状態の悪化を理由に、原告に対し、再三にわたって本件各貨物の売買代金の支払猶予を申し入れていること(甲五二ないし甲六〇)、右引渡しの最終日から既に二年近くが経過しているにもかかわらずプレムから原告に対し売買代金の支払いが一切なされていないこと、さらには、プレムがチリ国に本籍を置く業者であることといった事情を総合的に考慮すると、現時点においては、原告によるプレムからの本件売買代金の回収は困難な状況にあると認めるのが相当である。

また、原告は、現在本件各船荷証券を所持しているから、本来であれば本件各貨物そのものの引渡しを受けることにより、その損害の填補が可能と言うべきであるが、前記認定のとおり本件各貨物は既に焼失しており、いずれにしても本件各貨物の売買代金の回収は事実上不能となっていると認めざるを得ない。

4  被告の債務不履行と原告の被った損害の因果関係について

前記認定のとおり、ウルトラマは、本件各船荷証券の写しを原本化してプレムに交付し、プレムはそれをエンプレサに呈示して本件各貨物の引渡しを受けたものであるところ、右ウルトラマの行為がなければ、原告は、プレムから本件各船荷証券と引換えに本件各貨物の売買代金を回収することができたか(既に原告は為替取組銀行に為替手形及び船荷証券を買い取ってもらうことによって右売買代金を一旦は回収していたのであるから、実際には、取立銀行が本件各船荷証券と引換えに本件各貨物の売買代金をプレムから回収し、その結果原告が為替取組銀行に対する償還義務を負わないという形で本件各貨物の売買代金の回収が確定したことになる。)、あるいは、プレムから売買代金の回収ができない場合には、本件各船荷証券を被告に呈示して本件各貨物の引渡しを受けることにより、売買代金相当額の損害の填補をすることができたものである。

そして、右ウルトラマの違法行為につき被告が債務不履行責任を負うことは前記二で認定したとおりであるから、被告の債務不履行と原告の被った損害との間には相当因果関係があるものと認められる。

5  原告の被った損害額について

(一) 国際海上物品運送法一二条の二第一項によれば、被告の債務不履行に基づく損害賠償の額は、荷揚げされるべき地及び時における運送品の市場価格によって定めるべきであるから、本件における損害賠償額は、イクイケ港における、本件貨物三ないし五の各引渡し時における市場価格によるものと解すべきである。

本件三ないし五の引渡し時における市場価格は、本件貨物三ないし五の各送り状記載の価格と認めるのが相当であり、前記認定のとおり、本件貨物三は同年七月二〇日、本件貨物四は同年九月七日、本件貨物五は同年九月一八日に、それぞれ、被告からエンプレサに対して引き渡されたと認められるので、本件貨物三ないし五の各送り状記載の価格を左記のとおり各為替レートの基準日における各為替レートで日本円に換算した価格を、本件貨物三ないし五の引渡し時における市場価格と認めるのが相当である(甲四三)。

(1) 本件貨物三について

本件貨物三の価格 六万九〇五〇米ドル

為替レートの基準日 平成一〇年七月二一日

為替レート 一米ドル一四〇・一円

円換算価格 九六七万三九〇五円

(2) 本件貨物四について

本件貨物四の価格 六万四七二一・五米ドル

為替レートの基準日 平成一〇年九月八日

為替レート 一米ドル一三三・二円

円換算価格 八六二万〇九〇四円

(3) 本件貨物五について

本件貨物五の価格 六万三三一七・五米ドル

為替レートの基準日 平成一〇年九月二一日(同月一九日は土曜日であるため翌営業日は翌週月曜日の同月二一日)

為替レート 一米ドル一三三・九五円

円換算価格 八四八万一三七九円

以上の次第で、本件の損害賠償額は、本件貨物三ないし五の引渡し時における市場価格の合計額、すなわち、右各円換算価格の合計額である二六七七万六一八八円と認めるのが相当である。

(二) なお、本件では債務不履行責任のみが認められるので、原告が主張する弁護士費用は損害として認めることはできない。

(裁判長裁判官 西岡清一郎 裁判官 金子修 裁判官 宮崎拓也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!